看護計画のたたき台やレポートの下書きに、生成AIを使う看護師も出てきました。そのとき迷うのが、「患者さんの情報を入れていいのか」です。
私自身も、個人情報がどこまでを指すのか分からず、手が止まったことがあります。そのときは抽象的な情報しか入れられず、個別の状況に合った答えは得られませんでした。だからこそ、どこまでなら入れてよいのかを知っておくことが大切だと感じています。
結論から書きます。大切なのは、患者さんの情報を入れなくてもAIを使えるようになることです。疾患や治療について一般的に聞けば、看護計画のたたき台は十分に作れます。必要なのは、「入れない代わりに、どう聞くか」を知っていることです。
そのうえで、判断がつかないときは、入れない。入れてよいかを決めるのは、看護師一人ではなく、勤務先のルールだからです。
この記事では、その理由と、患者さんの情報を入れない聞き方、入れてしまったときの対応、AIの答えとの付き合い方を整理します。
看護師が守っている2つのルール
① 看護師の守秘義務
保健師助産師看護師法は、看護師は「正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」と定めています(第42条の2)。看護師を辞めたあとも続く義務です。
② 個人情報保護法
病院は個人情報保護法の「個人情報取扱事業者」にあたり、看護師はその従業者として患者さんの情報を扱います。国公立の病院も、2021年の法改正で、原則として民間の病院と同じルールが適用されるようになりました。そして病歴は、特に配慮が必要な「要配慮個人情報」です(第2条第3項)。

入れていいかを決めるのは、病院です
個人情報保護委員会は2023年6月に、生成AIの利用について注意喚起を出しました。病院などの事業者に対しては、本人の同意なく個人データを入力し、それが答えを出す以外の目的(学習など)で使われると、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。そのため、サービス事業者がデータを学習に使わないことなどを、十分に確認するよう求めています。
厚生労働省のQ&A(2025年5月)でも、入力した情報が「AIの学習等のために保存されないこと」が契約などで担保されているかが論点になっています。契約を結ぶのは病院です。
つまり、入れてよいかは、看護師が個人のスマホで判断できることではありません。個人でAIの「学習に使わない設定」をしても、業務で患者さんの情報を入れてよくなるわけではない点にも注意してください。
規程がない職場では
「うちには生成AIのルールがない」という職場もあると思います。私自身、誰に確認すればよいのか分からなかったことがあります。それでも、規程がないことは、使ってよいという意味ではありません。
- 使う前に、上司や、情報システム・個人情報保護の担当部署に確認する
- 確認がとれるまでは、患者さんの情報を入れない使い方(一般的な知識の整理、架空の事例での練習など)に限る
民間の非営利団体である医療AIプラットフォーム技術研究組合がまとめた「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」でも、組織が認めていないAIを個人で使う場合は、医療情報を扱わず、参考情報の収集などに用途を限るよう求めています。
「名前を消せば大丈夫」ではありません
氏名を消しても、次のような情報から個人が分かることがあります。
- 患者ID、部屋番号、生年月日、入院日などの日付
- 珍しい病名、年齢、入院の時期、地域などの組み合わせ
- 患者さんの発言をそのまま書き写したもの、病院名や病棟が分かる情報
法律には、個人を特定できないように加工した「仮名加工情報」「匿名加工情報」という仕組みもありますが、決められた方法とルールに沿って作るものです。個人情報保護委員会は、仮名加工情報でさえ、作った事業者にとっては原則として個人情報にあたるとしています。看護師が名前を消しただけの文章は、個人情報のまま扱うと考えてください。
大切なのは、名前があるかどうかではなく、その情報が患者さんや自分、病院につながらないかです。
患者さんの情報を入れない聞き方
コツは、実在の患者さんの記録から書き写すのではなく、架空の設定を自分で作って聞くことです。
| 例 | |
|---|---|
| 入れない | カルテから書き写した内容(氏名、患者ID、入院日、病院名、患者さんの発言など) |
| 架空の設定で聞く | 「80歳代、糖尿病で透析に通院中、送迎は家族」という条件で、一般的な看護計画の項目を挙げてもらう |
同じような文面に見えても、実在の患者さんをもとに作った文章は、病院から見れば「その患者さんの情報」のままです。個人情報保護法は、ほかの情報と容易に照合して個人が分かるものも個人情報に含めています(第2条第1項)。カルテと突き合わせれば分かる以上、名前がなくても扱いは同じです。

抽象的すぎて役に立たない、とならないように、具体的にするのは架空の設定の方です。年代、治療、生活背景を足していけば、返ってくる答えの具体性は上がります。そのうえで、目の前の患者さんにどう当てはめるかは、自分とチームで判断します。
増やしてよい情報と、増やしてはいけない情報
架空の設定に何を足すかも、2つに分けて考えてください。

見分け方は一つです。その情報が「病状をどう見るか」に関わるものか、「誰なのかを絞り込む」ものかで判断してください。
ただし、珍しい疾患や、地域で受けている人が少ない治療は、条件を足すほど実在の人に近づきます。日本看護協会も、ブログなどに家族構成を書くことを、情報漏洩につながる例として挙げています。設定は、よくある条件にとどめてください。
もし入れてしまったら
AIに送った情報は、履歴を消しても取り消せないことがあります。情報がどこへ行くのかは、こちらの記事で詳しく書きました。生成AIに個人情報を入れたらどうなる?
患者さんの情報の場合、影響は3者に及びます。
| 誰に | 起こりうること |
|---|---|
| 患者さん | 病歴などが漏れると、差別や偏見につながるおそれがある。本人は、自分の情報が入力されたことを知らない |
| 看護師 | 守秘義務違反になりうる(罰則は6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。告訴が必要)。懲戒処分や損害賠償の可能性もある |
| 病院 | 要配慮個人情報の漏えい(おそれを含む)は、人数に関係なく、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要。AIへの入力がこれに当たるかは個別に判断される |
入れてしまったときは、すぐに上司と、個人情報の担当部署に報告してください。自分の判断で会話を消して終わりにせず、指示に従うことが大切です。共有リンクを作っていた場合は、そのことも伝えてください。
AIの答えを、100%正しいと思わない
私が大切にしている視点が、もう一つあります。AIの答えを100%正しいと思わず、必ず自分で確認することです。
生成AIの文章は確率にもとづいて作られるため、自然な文章でも、中身が間違っていることがあります(個人情報保護委員会の注意喚起)。先ほどのガイドラインも、出力が正しいかを利用者自身が確認するよう求めています。
- 薬や処置の情報は、添付文書や院内のマニュアルで確かめてから使う
- 看護計画や記録のたたき台は、目の前の患者さんに合わせて、自分で直す
- AIの答えを、そのまま患者さんへの説明に使わない
個人情報の判断も同じです。AIに「これは個人情報?」と聞くのは参考になりますが、答えをうのみにせず、最後は自分と勤務先のルールで確かめてください。使い始める前に「こういう情報は入れない」と決めておくと、迷う場面も減らせます。
まとめ
業務で生成AIを使う前の、5つのチェック
- 勤務先で「使ってよい」とされているサービスか
- 入力した内容が学習に使われないことを、病院が契約などで確かめているか
- 名前以外も含めて、個人を特定できる情報が入っていないか
- 患者さんの情報を使わず、架空の設定で聞けないか
- AIの答えを、自分で確認してから使うか
私は、生成AIは使うことを前提に考えるべきだと思っています。記録や計画づくりに時間を取られすぎると、その分、患者さんと向き合う時間が削られてしまいます。AIに任せられる部分は任せて、患者さんと向き合う時間を増やす。そのために、AIを学んでほしいと思います。
ただし、目的はいつもより良い看護を提供することです。自分の仕事を楽にするためではなく、看護をするためにAIを使う。この姿勢を大切にしながら、私も生成AIパスポートの勉強を続け、学んだことを発信していきます。看護師の仕事は、AIに奪われません。だからこそ私はAIを勉強します
自分の個人情報を守るための設定や習慣は、こちらにまとめました。生成AIに個人情報を入れたらどうなる?
※この記事は一般的な情報をまとめたもので、法的な助言ではありません。実際の運用は、勤務先の規程と担当部署の判断に従ってください。
参考にした情報
- 保健師助産師看護師法 第42条の2(守秘義務)・第44条の4(罰則)|e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000203
- 個人情報の保護に関する法律 第2条第1項・第3項・第5項・第6項、第24条(従業者の監督)|e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日)|事業者向けの注意点、応答結果に不正確な内容が含まれることがある点 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(2026年4月改正版)|漏えい等の報告(規則第7条) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260401_iryoukaigo_guidance.pdf
- 公益社団法人 日本看護協会「個人に関する情報と倫理」|看護職が守る個人に関する情報の範囲、ブログ掲載で家族構成などを書くことが漏洩につながる例 https://www.nurse.or.jp/nursing/rinri/text/basic/problem/kojinjyoho.html
- 個人情報保護委員会 FAQ「匿名加工情報と仮名加工情報の違いは何ですか」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q14-1/
- 個人情報保護委員会「令和3年 改正個人情報保護法について」|国公立の病院などに、原則として民間の病院などと同じ規律を適用 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/minaoshi/
- 厚生労働省「『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版』に関するQ&A」(2025年5月)企Q-26 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001145860.pdf
- 医療AIプラットフォーム技術研究組合「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」(2025年7月11日)2章 利用者が特に注意すべきポイント①② https://haip-cip.org/assets/documents/nr_20241002_02.pdf
この記事を書いた人
がみ/看護師(臨床8年)
介護職を経て看護師に。消化器内科、循環器内科・ICU、回復期リハビリテーション、長期療養を経験し、現在も臨床で働いています。AIとガジェットを実際に試して、確かめたことを書いています。
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