「最近、歩くのが遅くなった気がする」
「前はまたげた段差に、つまずくようになった」
「親が、あまり外に出なくなった」
こういう変化を、「年だから仕方ない」で済ませていませんか。
私は看護師で、回復期リハビリテーション病棟に2年ほどいました。転んで骨折した方や、脳卒中のあとにリハビリをする方が、もう一度自分の生活に戻っていくための病棟です。
そこで働いていて、ずっと引っかかっていたことがあります。
転ぶ前から、少しずつ変わっていた人が多いということです。しかもその変化に、本人も家族も気づいていない。これがほんまに多いんです。
この記事は、その「気づかれない変化」を、歩数計やスマートウォッチで見えるようにできないか、という話です。
畑に行きたい、という方がいました
回復期リハビリ病棟で出会った方の話をさせてください。(個人が特定されないよう、細部は変えています)
70代の女性で、大腿骨頸部骨折で入院してこられました。
入院前は、毎朝4時に起きて、ご夫婦で畑に出ていたそうです。野菜の世話をする。それがずっと日課で、ご本人の言葉を借りると「生きがい」でした。
リハビリを続けて、歩けるようにはなりました。ただ、杖はいります。畑を続けられるかどうかは、正直まだ分かりません。
それでもその方は、「いつかは畑に行きたい」とおっしゃっていました。
折れたのは骨です。でも、失われかけているのは、毎朝4時に起きる理由の方なんですよね。
私が予防の話をしたいのは、この一言が忘れられないからです。
骨折そのものより、あとが怖い
正直に書きます。
骨折そのものより怖いのは、そのあと動かなくなることです。
転んで骨折して入院する。手術をして、痛いから動けない。動かない期間が続くと、筋力はあっという間に落ちます。すると立ち上がるのがしんどくなる。しんどいから動かない。そしてまた落ちる。
骨は治ったのに、元の生活には戻れない。そういう方を、何人も見てきました。
もちろん、リハビリで取り戻せる方もたくさんいます。ただ、入院する前の状態が良かった人ほど戻りやすい、というのも事実なんです。
だから私は、転ぶ前の段階がいちばん大事やと思っています。
その状態には、名前がついています
ここで一つだけ、言葉を紹介させてください。
年齢とともに体や心の元気が少しずつ落ちて、健康な状態と、介護が必要な状態のちょうど中間にある状態を「フレイル」と呼びます。
行政や医療者はよく使うんですが、一般にはあまり知られていません。ただ、知っておいて損のない言葉やと思うので、ここで出しておきます。
フレイルには、いくつかの側面があるとされています。
- 体の面:歩くのが遅くなった、疲れやすい、握力が落ちた、体重が減った
- 心の面:意欲が落ちた、物忘れが増えた
- 社会的な面:外出が減った、人と会わなくなった
意外に思われるかもしれませんが、「外に出なくなった」「人と話さなくなった」も、立派なサインです。体の問題だけやないんです。
いちばん大事なこと:戻せます
そして、ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。
フレイルは、そこから戻れる状態です。
介護が必要になってからでは大変ですが、その手前の段階なら、運動・食事・人との交流で改善が期待できるとされています。「もう年やから」ではなくて、「今なら間に合う」段階なんです。
だからこそ、早く気づくことに意味があります。
でも、気づくのが難しい
問題はここです。
こうした変化は、ゆっくり進みます。毎日少しずつなので、本人にはまず分かりません。「去年より歩くのが遅くなった」と自覚できる人は、ほとんどいないんです。
家族も同じです。毎日会っていたら変化に気づきにくいし、離れて暮らしていたら、電話ではだいたい元気そうに聞こえます。
「実家に帰ったら、急に痩せていて驚いた」という話、よく聞きませんか。あれ、急に痩せたわけやないんです。気づけなかっただけなんですよね。
自覚に頼ると、どうしても遅れます。そこで数字の出番です。
歩数・活動量を見ると、何が分かるか
スマートウォッチでも、活動量計でも、スマホの歩数計でも構いません。毎日の歩数が自動で記録されるだけで、見えてくるものがあります。
1. 傾向が分かる
大事なのは1日の歩数そのものより、去年の自分と比べてどうかです。「先月より1日平均で1,000歩減っている」——これは自覚よりも先に出ます。
2. 外出が減ったことが数字になる
歩数が減っているということは、たいていの場合、外に出る回数が減っているということです。さっき書いた「社会的な面」のサインでもあります。
3. 家族が見守れる
製品によっては、離れて暮らす家族とデータを共有できます。毎日電話するのは大変ですが、「今週あんまり歩いてないな」と気づけたら、連絡するきっかけになります。
監視ではなくて、きっかけとして使う。これくらいがちょうどいいと思っています。
4. 相談するときの材料になる
「なんとなく元気がなくて」と伝えるより、「3か月前と比べて歩数が半分になっています」と言えた方が、話が早いんです。
正直に、できないことも書きます
道具の限界も、はっきり書いておきます。
- 歩数計は、筋力も栄養状態も測れません。フレイルは歩数だけで分かるものではなく、体重・握力・意欲・食事など、いくつもの面から見るものです。歩数は手がかりの一つにすぎません
- 数字が減った理由までは分かりません。体調が悪いのか、天気が悪かったのか、気持ちが落ちているのか。そこを見分けるのは人間の仕事です
- 一般的な活動量計・スマートウォッチの多くは、医療機器ではありません。歩数や活動量は健康管理のための目安であって、診断に使うものではありません
- 数字が良くても、しんどいときは相談してください。ご本人の感覚の方が、機械より早いことがあります
道具はあくまで、気づきやすくするための補助です。それ以上でも、それ以下でもありません。
気になったときの相談先
「これはちょっと心配かも」と思ったときの相談先も、書いておきます。
お住まいの地域の「地域包括支援センター」です。
高齢者の生活や介護について、無料で相談できる公的な窓口で、市区町村ごとに置かれています。「まだ介護が必要なわけやないし」と遠慮される方が多いんですが、むしろその段階の相談こそ、本来の役割なんです。市区町村の名前と一緒に検索したら、担当の窓口が出てきます。
もちろん、体調そのものに不安があるときは、かかりつけの医療機関へ。
最後に
歩けること自体が目的やないと思うんです。
行きたいところに行けること。会いたい人に会えること。そのために足腰がいるだけで。
あの方にとっては、それが畑でした。毎朝4時に起きて、ご夫婦で野菜の世話をする時間。守りたかったのは歩く力そのものやなくて、その時間の方なんですよね。
だから、気づくための道具を使うことには意味があると思っています。
それに歩数を見るのは、意外と面白いんです。「今日は思ったより歩いてるな」と分かると、ちょっと嬉しくなる。
我慢して続けるものではなくて、楽しみながら気づける道具として使ってもらえたら嬉しいです。
※この記事は一般的な健康情報であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。体調に不安がある場合は、かかりつけの医療機関にご相談ください。